「生きる力」となる目標やイベントの大切さを教えてくれた弟(2才下の私の実弟)と、息子の未来に繋ぐ想い。
弟がガンと診断されてから、気づけば1年半が経ちました。
最初は手術もできる状態だったこともあり治療に希望を持ち、みんなで前向きに支え合ってきましたが、ガン転移も見つかり1年数か月が過ぎた頃、主治医から
「もう治療法がない」
と告げられ、緩和ケアへと移行することになりました。
途中、治験の話もあり迷いながらもチャレンジしたんですけどね。。。
残念ながら効果なく終わりました。
それでも弟は、前を向いていました。
サッカーボールを持った息子のビデオレターを見せたこともありました。
「よくなったらボクの試合を見に来てください!」
見終えた弟は、か細い声で
「応援してるから!」
と、タオルで目頭をおさえてました。
病院食も
「美味しいと思って食べないとね」
「食べたくなくても、口に入れないと」
少しでもガンが小さくなるよう自分にできることに努めていました。
2025年10月某日、病院側から
「 今後は弟さんのしたいことを優先していきましょう」
と提案されました。
部屋から富士山の見える宿やテラスにバスタブのある美しい夜景の見えるホテル、静かな旅館の画像を送ると、バスタブのあるホテルに泊まりたいという返信があり、希望を叶えることにしました。
外出許可も得て、その日を心待ちにしていた弟。
旅行出発前、体調もあまり良くない弟から電話があり、
「テラスは寒いでしょ?ノースフェイスのジャケット取ってきてくれる」
と連絡があり、ホテル宿泊をたのしみにしているのがわかりました。
わたしも弟との最後の旅を楽しみにしてました。
しかし、現実は厳しく、この1週間で体調は急激に悪化。
数日に一度の血液検査では、通常なら意識を失っていてもおかしくない数値だと主治医や看護師が話してくれました。
それでも弟は何日も、目を開け、わたしと短い言葉を交わすことができていました。
主治医は
「ホテルに行くというイベントが、彼の生きるモチベーションになっているのだと思います」
と言ってました。
ベッドの上で苦しそうにする姿を見ているだけに、その言葉を聞いたとき、胸が締めつけられる思いでした。
人は、どんなに厳しく苦しい状況にあっても、目標や楽しみがあることで、前を向いて生きようとする力を持てるのだと、弟が身をもって教えてくれました。
弟は着替えをするのも困難な状況でしたので、
ホテルには病院服の上にガウンを羽織った姿で車イスでも良いか確認を取り、滞在中は24h体制で介護師を付ける条件を加えるなど、なんとか実現する方向で動きました。
が、
外泊許可が出たときとは違い、今の弟の体はあまりにも弱ってしまっていて、ホテルへの外出は難しいと告げられました。
ホテル行きの当日、
「今日は数値が良くないから、もう少し状態が良くなったら行きましょう」
と主治医が弟に伝えました。
力なくうなずく弟。
別室では看護師さんから
「いつ“スッ”と逝ってしまってもおかしくない状態」
と言われ、私はただただ、弟が一日でも長く生きてくれることを願うばかりでした。
そして次の日の夜、
弟の心臓は動きを止め、
息を引き取りました。
主治医はじめ看護師の皆様には本当にお世話になりました。
感謝、感謝です。
そしてふと、サッカー選手を夢見る息子のことが頭をよぎりました。
私は改めて「目標」や「イベント」が人の心に与える力の大きさを実感しました。
息子は幼稚園の頃からサッカーを始め、今は中学生となりジュニアユースの強豪チームでプレーしています。
弟の闘病が始まった時期は、息子が小学6年生のとき。
私の生活は一変し、ジュニアチームに所属していること自体が負担に感じるようになり、さらに元々トラブルが多いとウワサのコーチとのやりとりもストレスになっていきました。
チームに入る前にわたしと約束したことが守られなかった後も、その他いくつかのトラブルも耳にし、
「もう辞めさせようかな・・・」
と悩んだ時期もありました。
それでも、仲間とボールを追いかける息子の姿を見るたびに、
「親都合で辞めさせたらかわいそうだな」
と思い、我慢を重ね、なんとか卒団式を迎えることができました。
そして弟とのやりとりを通して、息子の「大きな夢」と、日々意識のできる「小さな目標」はサッカーを続けていくモチベーションに必須と思うに至っています。
プロサッカー選手になるという一つの目標を持ち続けることはもちろん大切ですが、大きな夢に至るまでの道のりには、日々の練習や試合、技術の習得といった小さな目標の積み重ねが必要です。
そして、その一つひとつの目標が、息子のモチベーションとなり、成長の糧になると。
弟がホテルに行くというイベントを心の支えにしていたように、息子とは
「次の試合で1点取る」
「DFのときは1回も抜かれない」
といった、達成可能な目標を設定するようにしています。
もちろん達成したときは、試合後にお寿司を食べに行くとか、次のサッカーシューズの選択をしたりと、ささやかなお祝いをしています。
また、弟との会話を通して、言葉の重みについても深く考えさせられました。
「大丈夫?」
「調子はどう?」
少しでも良くなっていることを願って聞いている言葉ですが、時に相手を追い詰めてしまうこともあります。
「大丈夫じゃないから病院にいる」
「調子が悪いから病院にいる」
ということを頭に入れておく必要があります。
ガン家系ではなかったので、この辺の基本的なこともネットを活用しながら情報収集をしてきましたが、失敗もありました。
末期で何も食べられない状態の中で、誕生日プレゼントをどうするか悩んだこともありました。
家族だからこそ、言葉選びや接し方に細やかな配慮が求められる。
そんな当たり前のことを、改めて痛感しました。
入院先が遠方だったこともあり、週に1~2回の訪問となりましたが、日に日に力が弱くなっていく弟を見るのはツラく、どんな気持ちで横たわっているのか、痛みなどを抑える薬が効いているとは言え、苦しさと痛みでゆがむ顔、想像を絶する精神状態だったろうと思います。
今、弟はガンの痛みや苦しみから解放されました。
弟が教えてくれた「生きる力の源」を、これからの人生、そして息子の未来にしっかりと繋いでいきたいと思います。
1年半、ようがんばったな!
息子の応援よろしく!























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